精神科・内科・漢方内科クリニック

佐瀬医院

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こころの学校

ここでは、こころやからだについて、院長が毎月メッセージを送ります。

第14回『腸の歴史』

こころの学校 

私が医学部時代に習った腸の知識といえば、

腸は胃で消化した食べ物をさらに吸収する。小腸と大腸のつなぎ目にある虫垂は進化の遺物(だからいらない)。乳酸菌などの腸内細菌が消化吸収に役立っているらしいが詳細不明。

こんなもので卒業し、つい最近まで疑問さえ持ちませんでした。

腸内細菌のほとんどは嫌気性菌(空気の中では生きられない)なため、取り出して培養できず注目もされていませんでした。

まして、寄生虫は百害あって一利なしと思われ、こぞって駆除しました。

 

ところが、ところがです。

 

自分の免疫機構の70%を腸が担っており、虫垂がその監視維持センターだとしたら?

自分だけで生きていると思っていたら、個体を維持するための多くの機能を腸内細菌に外注共生して生きていることが分かったら?

寄生虫を腸で飼った途端、喘息が治ったら?

 

歴史を紐解けば、20万年前に人類が始まって以来、ずっと私たちは細菌とともに生きてきました。

というか、酵母や細菌たちは36億年前から生きており、私たちが生意気な新参者なのです。

ですから初めのうちは戦いでした。

口から摂るものには全て細菌がついており、やっつけたり負けたりしながら、いつの間にか共生関係を多くの菌やウィルス、寄生虫たちと結んだのです。

 

人のDNA解析が進み、人間の全ての遺伝子の解析が終了したとともに腸内細菌も死菌を解析し、その歴史が分かってきました。

 

人間の細胞は37兆個。腸内細菌は100兆個でその種類は数千種におよび、私という個体を見ると、人間の部分は4分の1程度しかないのです。

彼らは一体、何をしているか?

 

ヒトゲノムプロジェクトで分かった興味深いことがあります。

細胞を作る設計図であるマウスの遺伝子総数は2万3000個でした。

小麦の遺伝子は2万6000個

線虫は2万500個でした。

では、ヒトは?

 

科学者たちの予想平均は5万5000個でした。

ところが、人間の遺伝子は線虫とほぼ同じ2万1000個しかなかったのです。

おまけにそのうちの8パーセントはウィルスが由来です。

ちょっとプライドが傷つきます。

どういうことか?

それは、腸内細菌も個体の一部として数えた場合、その遺伝子数は一気に440万個まで跳ね上がるのです。

この400万を超える遺伝子が、ヒト遺伝子と協力して人間を動かしていることが分かってきたのです。

 

私たちに比べ彼らのライフサイクルは圧倒的に早い。

ということは、変異しやすくいろいろな形質を獲得しやすい。

だから、脳の働きに必要なビタミンB12を作るための遺伝子が人間に無くても、クラブシエラという腸内細菌がこの仕事を代わりにやってくれています。

バクテロイデス族は腸壁を作る手伝いまでしてくれます。

自分の持っている腸内細菌によって、何を消化し何が産生できるかが決定づけられるため、自分の持つ腸内細菌の組成により、太るか痩せるかさえも決まってくるのです。

 

無知ゆえの典型的な悲劇はコアラたちにも起こりました。

動物園で飼育しているコアラが怪我をした時に、飼育員は抗生剤を与えました。

しかし、抗生剤を与えたコアラは、傷が治るものの決まってユーカリを食べなくなり衰弱死してしまいます。

どうしてか?

そうです。コアラがユーカリを消化していたわけではありません。

コアラの腸にいた腸内細菌が、ユーカリを消化していたからです。

 

腸内細菌叢はよく熱帯の森林に例えられます。

我々はよく悪玉善玉と決めつけたがりますが、その多様性が必要です。

このほんの100年足らずで抗生剤というブルドーザーが、防腐剤や農薬というコンクリートが森林を変えてしまいました。

感染症の撲滅により寿命は格段に伸びはしましたが、つけも回って来たのです。

 

生態系が乱れると、たとえ善玉と呼ばれていても過剰に繁殖し害を及ぼします。

ヘリコバクターピロリ菌でさえ、無くなってしまうと、胃酸が増え逆流性食道炎が増えてしまうことが判明しています。

要は多様性とバランスなのです。

腸内細菌叢が貧困化したことにより、自己免疫疾患・アレルギー・鬱や認知症・自閉症までもが発症したのではないかと言われ始めています。

 

腸内細菌は、昔は敵でしたが、歴史の中で同盟を結んだ仲間です。

腸内細菌がいること、20万年ともに暮らすことで私たちの免疫系は仲間のために防衛を緩めるための制御機構を作り攻撃と防御のバランスを取っていたのです。

それが急に腸内細菌がいなくなり、制御機構が発動しなくなったため、慢性的な防衛過剰状態になり些細な敵(花粉など)に大げさに騒ぎ立て、ひいては自らの細胞まで攻撃し始めたわけです。

 

こころの話も付け加えましょう。

ストレスを受けても自己免疫やアレルギーは悪化します。

ストレスが高い人は外界に敏感となり個体は警戒緊張しています。だから免疫も過剰防衛するため、アレルギーは悪化してしまいます。

 

ね。こころもからだも生き物たちも切り離せるものは実はないのです。

不自然に生きることで、私たちはバランスを崩していくのです。

 

慈恵会医科大学病院では、今年から、寄生虫による難病治療の臨床研究が開始となりました。

米国やドイツではすでに治療として開始されています。

 

自然栽培が必要です。

自分が本当にしたいことをする生き方が必要です。

 

私たちはリンゴの木。

 

外の世界では、農薬によりミツバチも瀕死の状態になっています。

もはや他者を殺して我々のみが生きる時代は終わったのです。

仲間をもう一度迎え入れるために何をするのか、各々が考える時期に来ています。

 

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